曽我物語巻之第一

大見(おほみ)・八幡(やはた)が伊東(いとう)狙(ねら)ひし事(こと)

 此処(ここ)に、祐経(すけつね)が二人の郎等(らうどう)大見(おほみ)・八幡(やはた)は、是(これ)を聞(き)き、斯様(かやう)の所(ところ)こそ、よき便宜(びんぎ)なれ、いざや、我(われ)等(ら)、便(たよ)りを狙(ねら)はんと、各々(おのおの)、柿(かき)の直垂(ひたたれ)に、鹿矢(ししや)さけたる竹箙(たけえびら)取(と)りて付(つ)け、白木(しらき)の弓(ゆみ)のいよげなるを打(う)ちかたげ、勢子(せこ)にかきまぎれ、狙(ねら)ふ所々(ところどころ)は、一日は柏峠(かしはがたうげ)、熊倉(くまくら)、二日は荻窪(おぎがくぼ)、椎沢(しいがさは)、三日は長倉(ながくら)が渡(わた)り、朽木沢(くちきがさは)、赤沢峰(あかざはがみね)を始(はじ)めとして、七日が間(あひだ)、つきめぐりてぞ狙(ねら)ひける。然(しか)れども、伊藤(いとう)、国(くに)一番(いちばん)の大名(だいみやう)にて、家(いへ)の子(こ)郎等(らうどう)多(おほ)かりければ、たやすく討(う)つべき様(やう)ぞ、無(な)かりける。

<解説>
 工藤祐経の郎党二人、大見・八幡が伊東を七日間にわたり付け狙う。しかし、伊東は伊豆国一番の大名であったので、たやすく討てるはずも無かった。ちょうど伊東が狩りに出かけたので、勢子として潜り込んで機会をうかがった。これは、祐経の命令かわからないが父の遺領をどうしても伊東から奪い返したかったのだろう。結局の所、工藤祐経は源頼朝に従ったことで、遺領を取り返す。しかし、祐経の父の遺領を伊東祐親から取り戻すが、祐経は祐親の子供達(曾我兄弟)によって仇討ちとして殺されてしまう。因果は巡り巡るものである。

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